坂田ジュニアゴルフ塾に学ぶ > その25「どんなときでも緊張を持つというのは大切なこと」

その25「どんなときでも緊張を持つというのは大切なこと」

坂田信弘著「山あり、谷あり、ゴルフあり」より

これまでジュニア塾生たちのクラブ競技参加や大人の方との懇親コンペ、プライペートラウンドは許可して来なかった。例外は九州アマや日本アマ、日本オープンなどの公式競技に限っていた。

したがって塾生のコースラウンドはジュニア同士のみであり、塾生が大人のゴルファーの方と接する機会は極端に少なかった。しかし高校生活を終え、坂田塾を卒塾すれば、当然大人社会の一員に組
み込まれていくし、プロゴルファーになればプロアマ戦もある。

必然その準備は必要となった。そこで2006年から、一部大人の方々とのゴルフを解禁した。ただ個人戦は許可せず、団体戦のみ許可した。

(省略)

10月上旬、徳島の大学医学部同窓の方々と対戦したときのことである。神戸の塾生を連れて行った。

中学、高校の女子塾生7名。相手はお医者さんチームだ。神戸から徳島へ、高速バスでの移動の2泊の旅だった。

塾生たち全員は、相手チームのお宅にホームステイさせてもらった。対抗戦は終わり、2泊した朝、塾生はホームステイ先のお宅から、クルマで高速バス停まで送って貰った。神戸に渡ることとした私も、そ
の高速バスに同乗することにした。

私は子供たちより一足早く鳴門のバス停に着き、私がお土産売り場で時間を潰していた。子供たちが来た。子供たちは私に気付かず、階上にある搭乗口に向かって行った。その姿を見届け、私も階上へと向かった。階上の搭乗口で、あらためて子供らを見た。

7人中5人がジャージ姿だった。
 
坂田塾では、ゴルファーとして移動する場合、中高生は制服と決めている。小学生はブレザーだ。ジャージ姿の5人は、神戸のバス停まで親が迎えに来る予定にしていた子供たちだった。電車を乗り継いで帰る2人は制服姿だった。

子供たちは搭乗口前のベンチに座っていた。そして座ったまま、私に挨拶してきた。 

私は即刻、搭乗口の脇にあった待合所で着替えさせた。周りには、笑っている人もいたし、眉をひそめる人もいた。私は「着替えろ」とだけ言った。5人は黙って着替えた。

なんと緩んでいることかと思った。

その時、私は何も言わなかった。

ただジャージー姿を制服に着替えさせただけだった。高速バスは予定通り到着し、発車し、何事もなく神戸に着いた。
 
私は2週間後、神戸での合同練習の時ジャージー姿だった5人の親を呼んだ。
 
「私生活が、緩みすぎている」

私は親たちにそう言った。

バスに乗っているから誰にも見られぬという理屈は通らぬ。中学、高校の女子生徒がジャージー姿でキャディバッグを担いでバスに乗ってきたら、他の同乗の方々がどう思うか。国体の県代表のようなネームの入ったジャージー、スポーツクラブの制服としてのジャージーならいい。だがバラバラのジャージーは、まるで寝巻きじゃないか。そして師匠を迎えて座りっぱなしの挨拶とは何事か。
 
節度がなさ過ぎる。

私は5人を退塾させる意向であると伝えた。5人は皆がみな、許してくださいと言ってきた。全員が泣いていたよ。

みんな、始めからわかっていたようだ。

徳島からの帰りのバス停でのこと。
着替えろと命じられた瞬間、5人は自分等の誤りに気付いたという。
5人は3ヵ月の練習禁止を覚悟した。

ところが、私が何も言わない。

何も言わぬ私に対し、5人は普段以上の恐怖を感じたと言う。辛い2週間だったと思う。

子供たちには、自分が悪い、あるいは自分のやっていることがおかしいと言う予感を察知したら、すぐに
行動に起こせと言って来た。

みんなと一緒にいるから、そのカンが鈍る。もしも一人だったら、誰もジャージー姿でバスに乗ろうとは思わない。ルール違反であっても、みんなでやれば恥ずかしくない。

私は言った。

「『赤信号、みんなで渡れば怖くない』、これは面白い言葉じゃあるけれど、もっともやっちゃいかんことな
んだぞ」

「1円玉も1万円札も、落ちているものをポケットに入れたら、それは盗みだ。盗みと言う事実を見なきゃいかんのに、1円だからいいや、しかし1万円は駄目だという安易なる状況判断するから行儀が悪
くなってしまうのだ。そこを考えろ」
 
こうした気の緩みは、ゴルフに悪い影響を及ぽす。
 
「練習ラウンドだから、1ストロークはどうでもいい。試合だから1ストロークを大切にしなきゃいけない」

そう考えた時点で、ジュニアたちのゴルフは汚れる。

私は言った。

ゴルフを汚したいのか。今までの練習に泥を塗りたいのか、と。

子供たちは、ポロポロポロポロ涙を落とし続けていた。

親たちにも話しました。

「子供から迎えを頼む電話が掛かって来た時、『きちっとした格好で帰ってきなさい』という一言が、なぜ
言えんのか。そのために辛い思いをするのは、子供なんだ。もっと緊張感を持って子供と接して欲しい」、と。
 
私は謹慎処分も練習禁止処分も取らなかった。

その後、子供たちは必死になって練習に取り組むようになった。

緊張を持つことは大切なことなのだと思う。

バス停での子供たちの態度と服装。それを見た私の一言と、2週間後の指導。5人にとっては、とてもいい徳島への旅だったと思っています。