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河合隼雄著作集『流動する家族関係』より

小学校三年生の男の子が、ひどいチック症のために母親に連れられて来談した。

チックというのは、首を振ったり、まばたきをしたり、顔をしかめたり、手を振ったりするような行為が、本人の意志に反してひんばんに繰り返される症状である。

この子はよく首を振っていたが、それを気にした親が無理に止めさせようとすると、そのうち「ワッ」と声を出すようになった。五分間に一度くらい、急に声を出すのだから本人も辛くて仕方がない。

しかし止めようとしても止められないのである。担任の教師の配慮によって級友からそのために嘲笑されたりするようなことはなかったが、親がたまりかねて相談に連れてきたのである。

その子を遊戯治療ににさそってみると、随分とおとなしくて、男の子とも思えないほどの静かな遊びをしていたが、だんだんと慣れてくるに従って攻撃的な感情を表出するようになってきた。

電車をレールの上に走らせたりしているときでも、突然に衝突が生じたり、脱線したりという事故を表現する。

治療者に対してもチャンバラなどで向かってくるのだが、それは急激に凄まじいものになってきて、治療者には小さい刀をもたせ、自分は大きい刀をもって、無茶苦茶に斬りつけてくる。

これらの遊びを通じて、治療者はこの子の心の底に蓄積されていた攻撃の感情を表出させながら、その表現内容から、そのような感情が、彼の弟に向けられたものであることを感じとっていた。

一方、母親の方はカウンセラーとの話し合いを通じて、この子が三歳の時に弟が生まれたが、その時に家庭の事情で兄の方をかまってやることができず、ついなおざりにしたり、兄の方を叱りつけたりすることが多かったことを思い出し反省していた。

母が病院でお産をするとき、この子は祖父母のところにあずけてあった。病院に訪ねてきたとき、この子がむずかりもせず、むしろ早く帰りたそうにさえして、祖母と一緒に帰ってゆくのをみて「案外平気なものだな」と思いこんでしまったのが失敗のもとであった、と母親は反省されるのであった。

小さい子どもたちでも状況に応じて適当に感情をおさえることができるものである。ただ、このような子も母親が退院してきて、もう大丈夫と思うとコントロールがはずれ、母親に今まで以上に甘えたりして、貸しを取りもどし、健康に育ってゆくものである。

しかし、この例のように、母親が子どもの感情を思いやらず、退院後も厳しすぎるコントロールを強いると、そのときは何とか乗り切れても、後になっていろいろな症状として出てくることになる。

子どもが表面に何もあらわさないときに、子どもは何も感じていないと決めつけることは危険なことである。

カインとアベルの葛藤は、それほど簡単に消え失せるものではない。

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